第二回「母が消えた本当の理由」萩原水晶先生
久美子さん(28才・無職)から受けたご依頼は「母と話したい」。久美子さんが5才の時、お母さんは家を出て行き、それっきり一度も会っていないのだそうです。久美子さんはもうすぐ結婚を控え、お腹にはすでに赤ちゃんがいます。自分が妻、そして母になるに際して、ぜひとも実のお母さんと話したいとのことでした。私の降霊は、今現在行方がわからない相手の魂でも降ろせます。
いたこ祭文を唱えているうち、はるか九州の最南端からお母さんの魂が降りてきました。「私を呼んだのは久美子なのかい?」私の口寄せから出てきたのは、恐る恐るといった口調でした。「そうです。貴女の娘の久美子です」反対に久美子さんの口調はきっぱりとしていました。次の瞬間、口寄せを続けようとした私は言葉が出てこないことに気づいたのです。お母さんは黙り込んでしまったのでした。「今日はお母さんにどうしても聞きたいことがあって○○先生にお願いしました。23年前、お母さんはなぜひとりで家を出て行ったのですか?お父さんに聞いても答えてくれず、伯母さんに聞いたら『男ができて、全部捨てて逃げて行ったんだよ』と言われました。本当なんですか?」
「ちがう!それはちがうよ、久美子」今度はしぼり出すような声でお母さんは答えました。「じゃあ、なぜ?」叫ぶような久美子さんの声に、しばらく黙り込んでからようやくお母さんは言葉を発しました。「私は追い出されたんだよ。お義父さんとお義母さん・・・貴女のおじいちゃん、おばあちゃんを筆頭に、伯母さんたちも交えた親戚一同にだよ」「そんな・・・なぜ?!」「私たちの村に薬の行商に来ていた男性がいてね、食事も満足に取れないようだったから、私は時々弁当を差し入れしてあげたんだよ。それがいけなかったんだね。男性は私の好意を、自分に気があるからだと思い込んで、ある日部屋で抱きしめられたんだ。
もちろん、逃げようとしたけれど、男性の力は強くてそのまま最後まで・・・しかも、その直後の姿を、偶然訪ねてきた伯母さんに見られてしまった。いくら言い訳しても誰も聞いてくれず、行商の男性も『僕たちは愛し合っています』と言い張るんだ。一番信じてほしかった夫も私に背を向け、みんなで寄ってたかって『浮気女はここから出て行け!』って・・・私もやけになって行商の男と一緒に出て行くことに決めたんだ」
そこではぁはぁと息を切らしながら一旦口を閉じたお母さんに、久美子さんは涙声で尋ねました。「出て行く時、私のことをなんで置いていったの?」するとお母さんはすぐさま言い返しました。「連れて行きたかった。連れて行こうとした。でも、みんなして久美子を隠してしまって、私は最後の別れすらさせてもらえなかったんだよ。一旦村を出てからも、すぐ行商の男性とは別れて村に舞い戻り、久美子を連れて行こうとした。
でも、いつも貴女のそばにはおばあちゃんが張り付いていて、連れて行く隙がなかった。やがて私もあきらめて、村を遠く離れた九州で旅館の仲居やスナックのホステスをしながら生きてきた。でも、一日だって久美子のことを忘れたことはない!毎日朝起きれば『おはよう、久美子』と言い、夜寝る時には『久美子、おやすみ』と心の中で声をかけてた。7才になったら、ランドセルを買って、13才になったら近所の中学校の制服買って、成人式には着物まで買ったんだよ」
「お母さん・・・」久美子さんの顔はすっかり涙で濡れていました。「お母さん。私ね、もうすぐ結婚するの。お腹には赤ちゃんもいるんだよ。お母さんに花嫁衣装見てほしい。孫を抱っこしてほしい」「でも、私は貴女のお父さんや親戚一同から縁を切られて・・・」「私のたった一人のお母さんだもん。おじいちゃん、おばあちゃんはもう亡くなったし、伯母さんたちがなんと言おうと無視。お父さんは私が説得する。
お母さん、ずいぶん苦労してきたんじゃない。私の夫になる人はとてもやさしくて、私がお母さんに会いたがってたことも知ってる。だから、一緒に暮らそう。今まで離れてた分を取り戻そう」「久美子、ありがとう」その後、私の霊視でお母さんの現在の住まいを久美子さんに伝え、久美子さんと婚約者は迎えに行きました。そこで23年ぶりに涙の再会を果たし、結婚後は一緒に住むことを約束した久美子さん母子でした。夫や子供も含め、この一家が幸せに暮らすことが霊視ではっきりと視えました。