第四十四話「霊感保持者が奏でる浄化の旋律」
わたしの友人の話です。彼女は10代にしてピアニストになり、今はボランティアでピアノを弾いています。彼女が奏でる旋律は人の心を動かすと評判で、身内親戚の結婚式、披露宴のピアノはすべて彼女に任され、ソロ歌手等有名な方の伴奏もしていました。
また、彼女が動かすのは人の心だけでなく、天候までをも動かすのです。「雨だれ」のタイトルで有名なショパンの24の前奏曲作品28第15番変ニ長調を彼女が弾くと、雲行きが変わりだしてやがて雨が。ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光の曲」を弾くと、夜空の雲間に月が顔を出しはじめる、といった具合に。この「月光の曲」の第3楽章を弾きだすと、月がさらに煌々と地上を照らすのです。偉人の旋律が彼女を通して地上に舞い降りるように天候が変わるのです。
人の心に触れる彼女の旋律はまるで天使のよう、ですが、実は「悪魔の旋律」だったのです。悪い表現で言えば、「人の心をたぶらかす旋律」でしょうか。彼女は人のために弾いているのですが、善意なのに「悪魔」なのです。というのも、彼女に初めて会った時、彼女の背後に大きな黒い存在が見えました。その存在はわたしに言いました。
「わたしは黒の主、これはわたしの子」と。
「黒の子?(悪魔の子?)」彼女の旋律は本当に美しいし、強く、また儚く、人間の情緒と調和しています。それは確かに悪魔の成せる業とでも言えましょう。悪魔は天使よりも個々の信条をもっており、元々は神が人間に罰を与えるために遣わされた「試練を与えるもの」と言われたり、また、神自身が悪魔を創ったとも言われています。
しかし、ここで宗教云々は語りません。それはわたしが「霊視」で判るからです。彼女はけっして「邪霊に憑かれて」いるわけではないのです。強い先祖霊がついており、邪霊ではない多くの守護霊、そして支配霊がそれらを統率、あの黒く大きな存在はそれらをさらに統括しているように見えました。また、彼女のオーラは背後の黒に対し「黒光り」していたのです。
彼女の性格はというと、基本的に穏やかであり、しかし自己主張もしっかりしますし行動も速い、人に対し無駄に干渉することはなく、ピアニストだからなのか記憶力も相当良く、もちろん耳も良い。私生活で乱れもなく、喫煙飲酒もなく、だからといってつまらない人ではなく、不意を突いて面白いネタを入れてきたり、会話も多いといったところ。
わたしはある日思い切って彼女に聞いてみました。
「もしかして霊能力ある?」やはり、そうでした。彼女は記憶の限り祖母の代、母、彼女と霊能力をもっていました。代々の霊能力者には逆に霊が見えにくいものですが、彼女の家系は代々見えていたそうです。そして彼女の場合の除霊方法は「ピアノ」だと話してくれました。自らの旋律で邪気を祓う、病弱な方にピアノを聴いてもらう…。そう、実は今、彼女はボランティアで浄化のお仕事をしているのです。
彼女を支配する黒い存在はけっして悪くは見えません、さらに言えば「黒」が「悪」とは言えません。「悪魔の旋律」は「浄化の旋律」と言い替えたほうがよいでしょう。また、黒いオーラは「悪」ではなく「邪気をはじく強い気」なのです。しかし、人生どこに落とし穴があるか分かりません、「黒」が「悪」にならないよう、これからも親友として彼女と関わり、見守っていきたいと思っています。