第六話「祖母は今でも、戦争で若くして亡くなった祖父のことを想っているんです」
ご縁の形は様々ありますが、その中でも結婚する男女の縁には強い絆があり、二人の出会いはそれぞれの人生に多大な影響をもたらします。今回は婚姻期間こそ短かったものの、一人の女性の生き方に大きな影響を与えたご夫婦の話を紹介します。
お電話をくださったのは由紀さん(仮名・30代女性)で、ご相談の内容は由紀さんのおばあ様にあたる、小春(仮名)さんのことでした。由紀さんは電話口で話される感じだけでいい人だとわかるくらい、優しい心根を持った方です。そんな由紀さんだからこそ、おばあ様のことを気にかけ、相談くださりました。
小春さんは第二次世界大戦が始まって間もないころ、山間の小さな田舎町で生まれました。幸い小春さんの住む町は酷い空襲などはありませんでしたが、多くの人が疎開しに来たり、町の男の人が戦地に駆り出される様を見ていたりと、幼いころの記憶にはいつも戦争がありました。しかしながら小春さんはとても穏やかな性格で、この田舎町でのんびりと暮らしていました。
年頃になるといくつか縁談が舞い込みましたが、なぜかまとまる直前で立ち消えになることが多く、ご両親はとても焦っていたそうです。そんな中、隣町に住むある男性がぜひ小春さんと結婚したいと申し出てくれました。ご両親は喜び、とんとん拍子で結婚話が進み、小春さんは隣町に嫁入りすることになりました。小春さんの夫となった人は眼鏡をかけた少し気難しそうな人で、ご主人の両親はすでに他界しておられたため、ご主人とその妹さんとの三人での生活が始まりました。
小春さんの新婚生活は、戦時中と言うこともあり、とても質素なものでした。新婚旅行に行くでもなく、ごく普通の生活が続いて行くだけ。ご主人は寡黙な方で、会話を楽しむようなタイプではありませんでしたが、小春さんは自分をもらってくれたということだけで満足していたそうです。しかしながら穏やかな時間は長くは続かず、ご主人が徴兵され戦地に行くことになってしまいました。最後の晩も特に変わったことなくいつも通り過ごしていたのですが、寝る前にご主人が、「母の形見だ」と言って大きな翡翠のペンダントを手渡してくれました。小春さんは、その時触れた御主人の手がとても大きく、あたたかかったことを今もよく覚えておられるそうです。
小春さんはそのペンダントを大事にしながら、ご主人の帰りを待ちました。戦火は酷くなる一方でそれまで以上に苦しい生活が続きましたが、そんな中で小春さんのお腹に子どもが宿っていることがわかり、義妹さんと手を取り合って喜んだそうです。お腹の中の子が生まれるのとほぼ同時に、日本は終戦を迎え、それからしばらくして、ご主人の訃報が小春さんたちの元へ届きました。悲しく、寂しい思いはありましたが、泣いてばかりはいられません。生まれたばかりの幼子を抱えながら、小春さんはその思いを振り切りました。
戦後の激動の中、小春さんと義妹さんと娘さんとの女三人で、その日を生きるのに精いっぱいという時もありながらも、なんとかやっていきました。小春さんの娘さんで、由紀さんのお母様も当時を思い出しては、「大変なことが沢山あったのよ。でも、おばあちゃんもちぃおばさん(義妹さん)もいつも楽しそうにしていてね、私もそれで楽しく暮らせたの」と笑っておられるそうです。
そしてまた時を経て、お孫さんである由紀さんが結婚される時に、小春さんが「あの人は幸せだったんだろうかねぇ…」と、ぽつりとまるで独り言を言うようにして呟かれたそうです。それを聞いた由紀さんは、お仏壇の写真でしか知らなかったおじいちゃんの話を自分から訊くようになり、小春さんが今でも翡翠のペンダントを大事にしていることを知ったそうです。「生活が苦しい時に何度も売ろうと思ったけど、私があの人からもらったのはこれと娘だけだからねぇ。大切にしてきたのよ」と、小春さんは微笑んで語られました。
「おばあちゃんに、おじいちゃんがどう想っていたのか教えてあげたいんです。そんな大切なものを渡すくらいだから、おじいちゃんもきっと、おばあちゃんのことが大好きだったんだろうなあと思って」
という由紀さんの依頼で、今回は降霊ではなく、こちらが戦争で亡くなったおじい様との交霊行い、その時受け取った言葉をまとめて伝えさせていただきました。
「小春には大変な苦労をかけて、申し訳なかったと思っている。女の細腕で娘を育て上げ、今では私の血を引く孫までいる。そのことにとても感謝をしている。ありがとう、小春。生きている時は恥ずかしくて言えなかったけれど、実は、用事で隣村に行った時におまえに一目惚れして、絶対におまえと結婚しようと決めていた。だから祝言を上げた日は、本当に嬉しかった。短かったけれど、そのあと一緒に暮らした日々も、私にとっては幸せそのものだった。おまえは気立てがよく、いつも笑顔で、父と母が亡くなってから冷え切っていた家に、あたたかい春の風が舞い込んできたようだった。私と結婚してくれて本当にありがとう、小春。またこちらで会った時は、沢山話を聞かせておくれ」
その後由紀さんは小春さんにおじい様の言葉をお伝えになったそうで、おばあちゃんがとても喜んでいたとご連絡をいただきました。小春さんは目にうっすらと涙をため、嬉しそうに「それはよかった…本当によかった…」と呟いておられたそうです。
小春さんとご主人が実際人生を共にした時間はとても短かったのですが、二人の縁、絆には相当深いものがありました。霊視させていただいたところ、前世でもご夫婦で、今世でも一緒になることを前もって決めて来られたようです。ご主人は、今世の小春さんにとって生涯の支えとなった存在でした。
死別した相手の気持ちが気になる、どうしても知りたいと思われる方は、ぜひご相談ください。往々にして死者は、あたたかい気持ちでこちらを見守ってくれています。その気持ちを知ることは、あなたのこれからの人生において大きなプラスとなるでしょう。