陸奥国の神秘 尼子

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ホームイタコを知るイタコの霊媒助言 オシラアソバセ

イタコの重要な役割―オシラアソバセ

私どもイタコの役割として、最も有名なのは口寄せです。これはご存知の通り、死者の霊や生霊を自分の身に降ろし、私どもの口を使って霊に話をさせるというもの。そしてこの他に、イタコにとって重要な役目があります。それは「オシラアソバセ」と呼ばれる行事です。 オシラアソバセについて語るには、まず「おしら様」について説明しなければなりません。 おしら様は東北地方で信仰されている家の神で、一般には農業の神、病気平癒の神とされています。宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」では、大根を擬人化した神として登場しているので、覚えておられる方もいるのではないでしょうか? しかし、明治時代以降、多くの学者がおしら様の研究に当たってきましたが、いまだ謎に包まれたまま。いつ、誰がこの神を祀り始めたのかさえ、わからないのが現状です…。

おしら様のご神体は、桑の木で作った男女二体。長さ30cmほどの棒を布切れで何重にも覆っています。かつては男のご神体は、馬の顔をしていました。これにはおしら様にまつわるこんな言い伝えが由来しています。

昔、ある長者の娘が自分の家で飼っている美しい馬に恋をして、夫婦になってしまいました。長者は怒り、馬を殺してしまいます。娘が遺体にすがって泣くと、今度は長者は馬の首をはねたのです。娘がその首に飛び乗ると、そのまま天に昇り、この娘と馬がおしら様になったといわれています。娘は亡くなった後、父の夢枕に立ち、蚕を桑の葉で飼えば、その絹糸で一生安泰に暮らせると言い残したそうです。そのため、おしら様は農業の神、病気平癒の神の他、養蚕の守り神としても信仰されるようになりました。

さて、おしら様のご神体は普段は厳重に祠(ほこら)の中にしまって神棚に納めておき、誰も見ることができません。おしら様の祭日を「命日」を呼び、旧暦1月、3月、9月の16日を指します。この日だけはおしら様を祠から出して、神饌(しんせん・神に食べていただくもの)を供え、オセンダクと呼ばれる新しい衣を着させます。これまで着ていたオセンダクの上に重ねるため、何代も続くおしら様は着ぶくれしている状態です。

この命日には、私どもイタコがおしら様に向かって神寄せの経文を唱え、おしら様を手に取って祭文を唱えながら踊らせます。これが「オシラアソバセ」と呼ばれる行事です。イタコを呼ばずにその家の主婦が祭文を唱えるお宅もありますが、オシラアソバセは決して男性が行ってはなりません。また、女性であっても、イタコ以外のよその人間が行うことも禁じられています。

おしら様にはこうした禁忌が多く残されています。例えばおしら様は肉や卵を嫌うため、お供えすると大病を患うといわれています。命日には家人も肉を食べるのは厳禁です。また、おしら様を粗末に祀っていると家人に祟りがあるともいわれ、感謝と同時に畏怖の念を抱かなければなりません。

岩手県遠野市「伝承園」の御蚕神堂(おしらどう)には、千体のおしら様が展示されています。謎の神、おしら様を拝みにいらしてはいかがでしょうか…。