陸奥国の神秘・電話占い
menu
尼子の百物語

第十九話「忌み山」

「山歩きから帰ってきて以降、不運な出来事ばかり起こるようになりました。霊障を疑いお電話いたしました。鑑定をお願いします」そう告げる男性の声にはただならぬ霊気が漂っており、ご相談の背景に霊的な問題が絡んでいることは瞬時に分かりました。今回のご依頼主は30代男性の隆史さん。自営業の傍ら、自由な時間を活かして日本各地の山々をめぐる登山を趣味としており、先日も山歩きを楽しんできたばかりとのことでした。

趣味の登山は大学生の頃からずっと続けているそうで、もう有名な山はあらかた登り尽くしてしまい、最近はあまり知られていない山ばかり登っているそうです。霊感を働かせると、標高のさほど高くない、人里離れた山が見え、そこから日本アルプスをはっきりと望むことができました。「中部地方の山ですね。日本アルプスが見えます」そう告げると、少々驚かれた後、「はい、岐阜県の山奥です」と答えられました。

隆史さんはその日、まだ夜も明けぬうちにひとりで山の麓まで車で向かい、駐車場に車を停め、夜明けと同時に登頂を開始。山道自体は長く曲がりくねってはいたものの特にそれほどの難所もなく、午前10時を回る頃には山頂に辿り着きました。登山人気の高い山は大体山頂付近に山小屋がありますが、その山はあまり好きこのんで登る人も多くない山で、山頂であることを示す木製の古びた看板が掲げられているだけでした。

そこで携帯ガスコンロを使って昼食を取り、しばらく休んだ後、下山したそうです。すると、その下山の途中で間違った道を進んでしまい、15分ほど歩いたところで見慣れない石碑を見つけたそうです。間違いに気付き、地図を見返しましたが、その道は地図には載っていない道でした。隆史さんは「けもの道に迷い込んでしまったのだろう」と納得し、引き返し、また15分ほど歩いて元の山道に戻りました。そして、そのまま麓まで特に迷うこともなく辿り着きました。そしてそのまま車に乗って帰った、とのことでした。

しかし、その登山以降、おかしな出来事が立て続けに起こるようになりました。目の前で交通事故が起きて人が死んだり、家の前で猫の死骸を見たり、職場のビルから人が飛び降りたり、死にまつわることが次々と重なったのです。最初は「嫌なものを見たな」と思う程度でしたが、一週間のうちに二回も三回も重なると、「これはおかしい」と思うようになり、霊的なものを勘ぐるようになったそうです。電話占い尼子はすぐに鑑定可能な霊能者をインターネットで調べて辿り着いたとのことでした。

電話越しの隆史さんからは確かにただならぬ霊気が漂っており、霊的に異常な状態であることが分かりました。その一方、霊視をしましても、特に何か禍々しいものに憑かれているような気配はしません。ただ、本来生きた人が放っている生命力が極端に少なくなっており、その代わりに霊や魔物など霊的な存在が放つ独特の気配が漂っていました。

鑑定開始直後、その気配を感じた私は、「何かに憑かれている」と思ったのですが、どうやらそうではなく、気配は隆史さん自身から漂っていました。続いて私は、先日登ったという岐阜県の山を霊視しました。すると、山全体が異様な気を放っており、まるでそこだけが彼岸(あの世のこと)であるかのような佇まいをしていたのです。その気を感じ取ったことで、隆史さんの身に起こっている事態の概要を把握することができました。

「あなたは『忌み山』に足を踏み入れてしまったようです。まず『忌み山』というものをご説明いたします。昔の日本には、良い土地、悪い土地という概念が色濃くありました。風水や龍脈といった概念が関係しているのですが、土地には、良い気が溜まりやすいところ、悪い気が溜まりやすいところ、というのがあるのです。良い気が溜まりやすいところには殿様のお城が建てられたり、地元の人達の間で『霊場』と呼ばれたりしました。今でいうパワースポットというものです。そして、悪い気が溜まりやすいところは『忌み地』と呼ばれ、例えば死んだ人の亡骸を埋葬したり、年を取って動けなくなった老人や奇形で生まれた子供を捨てたりする場所としました。あなたが足を踏み入れた山は、かつてそういった場所として用いられてきた忌み地の山、『忌み山』です」

隆史さんは無言で私の説明に耳を傾けていました。私は話を続けました。

「もちろん、現在そういった風習は廃れています。しかし昔から忌むべき場所として見なされてきたその山は、この世でありながらあの世に近い性質を持ち、黄泉の世界へと繋がりやすい性質を残しています。『下山の際に地図にない道に入ってしまい引き返した』とのことでしたが、その道は厳密には地図にない道ではなく、この世にはない道です。あなたはあの世に繋がる道にうっかり進んでしまい、15分……いえ往復で30分ほど、この世ではない場所にいたのです。今のあなたの周りで死にまつわる出来事が頻繁に起こるようになったのもそのせいです。あなたは死を引き寄せやすい体質になってしまったのです」

その後、私は隆史さんに波動修正を行いました。まず浄化の念を送り、魂にこびりついたあの世の気を祓い、その後、著しく弱った生者の気を分け与え、一般的な生者と同じようなバランスへと修復いたしました。全て終わったという旨を告げると、「なんだか頭が冴え渡る感じがします。最近ずっと頭にモヤが掛かったような感じだったんです。これで元に戻るのですね」とおっしゃっていました。

私は隆史さんに「暫くの間、登山そのものを控えるようにして下さい」と忠告しました。山はそれそのものが異界としての性質を持っています。私達が住んでいる人里ではない動物や植物達の領域、また神や妖怪の領域です。霊気が健常な生者であればそう言った場所に多少足を踏み入れても全く問題ありませんが、今の隆史さんはまだ完全に霊気が回復しておらず、そういった状態で山に入ると、またこの世ではない世界に迷い込んでしまうかもしれないからです。

その鑑定から半年ほど経ち、最近、ご本人から報告のお便りをいただきました。あれから身の周りでおかしなことが起こることはなくなったそうです。登山は鑑定後数ヶ月の間控えていたそうですが、やはり山が恋しくなり、最近また再開してしまったとのこと。「せめてあまり得体の知れない山には登らないようにしています。先生の鑑定で、世の中にはそういう山や土地もあるということを学びました。ありがとうございました」と綴られていました。

尼子の百物語 / 第十九話「忌み山」