陸奥国の神秘・電話占い
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尼子の百物語

第七話「身体を探して彷徨う自殺者の怨霊」

「先生、お願いします。助けて下さい」その日、鑑定の電話を下さったのは、東京都中野区にお住まいの杏子さん(仮名・29歳)。1Kのアパートで彼氏と同棲して2年になるらしいのですが、愛情縁のほつれは全くと言っていいほど感じられません。ですがその代わりに、電話を受けた瞬間から異様な雰囲気が流れ込んできたのです。恨み…悲しみ…絶望…あらゆる負の想いが混ざり合った気配でした。そんな気配を漂わせながら電話越しに啜り泣く相談者の杏子さん。相談内容がその気配に関係していることは一目瞭然でした。

それは“不幸な事故”としか言いようのないものでした。ある平日の昼間、杏子さんは、彼氏とその友達の3人で駅前に集合して、電車に乗り、遊びに出掛けたとのことです。平日昼間の車内はがらがらで、杏子さん達以外に誰もおらず、杏子さんたちは景色のよく見える先頭車両に乗ったそうです。シートに座って3人で他愛もない雑談をしていた時、突然『バンッ!』という大きな破裂音が響き、すさまじい振動が車内を襲いました。飛び込み自殺でした。事後処理は1時間以上に及び、その間、3人は車内に閉じ込められてしまったそうです。その後、ようやく電車が動き出しましたが、とても遊びに行く気分になれず、そのまま引き返して解散した、とのことでした。

その夜、杏子さんは悪夢にうなされました。暗闇の中に血まみれの女性が浮かび、無言でこちらを見つめているのです。夢から覚め、思わず隣で寝ていた彼氏を起こそうとした瞬間、彼氏も「ウワーッ!」という絶叫と共に飛び起きました。彼氏も悪夢にうなされていたのです。「あのね、血まみれの女が…」と話し始めると、なんと「えっ…俺も同じ夢を見た…」とのこと。ですがふたりで夢の内容を話していくうちに、細かい部分に違いがあることが分かりました。杏子さんの夢は「血まみれの女が無言でこっちを見ていた」というもの。彼氏は「『足を返せ』と言われた」というものでした。そして翌日、杏子さんの彼氏はバイク事故で足を複雑骨折したのです。彼氏は1ヶ月のあいだ入院することになりました。

「もしかしてあの夢の女性は自分の身体の代わりを探しているんじゃ…」そう考え出すと、杏子さんは居ても立ってもいられなくなり、当日一緒だった友達に連絡。すると案の定「俺は『手を返せ』と言われた」と告げてきたのです。予感は的中しました。ですが電話越しに話す彼はあまり気にしていない様子で、「まあ、あんなことがあったしね。あいつも動揺して運転ミスしたんじゃないかな? 気にしないのが一番だよ。今度お見舞いに行くよ」あっけらかんとそう話していたそうです。ですが、その翌日、彼は飲食店での仕事中、両腕に煮えた油をかぶってしまい、大火傷を負うことになったそうです…。

「次は私だ…」そう思い、夜も眠れなくなってしまった杏子さん。睡魔で朦朧とした意識を奮い立たせ、インターネットでお祓いをしてくれる霊能者を探したそうです。ですが、ふと我に返り、“自分は夢の中で何も言われていない”ということに気付きました。あの日見た夢の女は、彼氏には『足を返せ』と言い、友達には『腕を返せ』と言いましたが、杏子さんには何も言わず、ただ無言で見つめていただけでした。「もしかして、私は平気なんじゃ…?」そう思うと同時に杏子さんは強烈な睡魔に襲われ、つい眠ってしまったそうです。

『心臓を返せ』

杏子さんは絶叫と共に飛び起きました。夢の中にまた血まみれの女が出てきたのです。そして今度は杏子さんをじっと見つめながら、『心臓を返せ』と、確かにそう言ったのです。杏子さんは蒼褪めた表情ですぐに霊能者を検索。そして“尼子”に辿り着き、すぐに電話鑑定を依頼しました。その鑑定依頼を受けたのが私…ということになります。

「分かりました。やってみましょう」凄まじい怨念の気配を感じながら、意を決し死者霊交信を開始。すると怨霊の正体はやはり自殺者の女性でした。彼女は交際相手に振られ、失意のあまりふらふらと踏み切りから身投げしたのです。勢い余って死んでしまった彼女は、後悔のあまり、バラバラになった自分の手、足、そして心臓を探して、自分を撥ねた電車にたまたま乗り合わせていた、杏子さん達3人に祟っていたのです。

“あなたはもう死んだのです。これ以上祟ってはなりません”

『手も…足も見つからない…せめて心臓…私を撥ねた女から心臓を奪ってやる…』

“いけません。そんなことをしてもあなたは生き返りません”

『心臓を奪って生き返るの…もう一度あの人とやり直すの…』

“そんなことは出来ません。これ以上過ちを繰り返してはなりません。
罪を償い、生まれ変わり、今度こそ幸せな恋をするのです”

『幸せな恋…』

やがて彼女の恨みの念が少しずつ弱まっていきました。

『幸せな恋…今度こそ出来ますか…』

“ええ、きっと出来ます。だからもうこれ以上祟ってはいけません”

説得を繰り返した結果、ようやく彼女は納得し、霊界へと帰っていきました。なお、自ら命を絶つ行為は、魂や宿命に対する冒涜、“罪”となります。おそらく彼女は生まれ変わりの前に霊界で罪を償うことになるでしょう。ですが、罪を償った後、彼女は新たな命を得、新たな使命を課されて、生まれ変わります。死者霊交信の最後、彼女が霊界へ旅立った後で、“来世で彼女が幸せな恋をできますように”と、私は祈りを捧げました。

後日、杏子さんからお礼のメールを頂きました。「鑑定以降、悪夢を見ることはなくなった」とのこと。「あれから特に怪我をすることもなく、やがて彼氏と友人も無事に退院した」とのことでした。メールは鑑定への礼で締められており、事態が完全に終焉したことを教えてくれました。通常、あらゆる事象は因果によって降りかかるものですが、ごく稀にこういった“事故”に巻き込まれる形で、怨念を受けたり、怨霊に取り憑かれたりすることもあります。もし、あなたの身に同じようなことが起こった場合、信頼出来る霊能者の存在を知っているかどうかで、事態の結果は大きく変わってきます。“備えあれば憂いなし”というものです。この物語をお読みになった皆さんは、ぜひ我々のような霊能者の存在を、心の隅に留めておいて下さい。

尼子の百物語 / 第七話「身体を探して彷徨う自殺者の怨霊」