陸奥国の神秘・電話占い
menu
尼子の百物語

第六話「夜な夜な聞こえる呪いの声」

「つい最近、新築マンションに引越ししたばかりです。私以外誰もいないはずなのに、夜ヒタヒタという足音が聞こえてくるんです。その霊は私のベッドの周囲をグルグルと回っているようで、足音は近づいたり遠ざかったりします。足音だけでなく、ゾッとするような低い声も聞こえてきます。いつも恐くて逃げ出したいのに金縛りにあったように身体が硬直し、動こうとしても指一本動かせません。どうしたらいいのでしょうか?」

電話占い尼子のもとへこのようなお電話が入ったのは、ある嵐の晩のこと。ご相談者は埼玉県在住のH様で、深夜二時を回った頃だったと記憶しています。私はちょうどひとつ前の鑑定が終わったところ。突風が窓を激しく叩く音を聞きながら、しばし休息をとっていると電話が鳴りだしたのです。その声はとても弱々しいものの、鋭く私の脳内に切り込んできました。それは、H様のお悩みがそれだけ深刻だという証。私はいつも以上に気を引き締めて鑑定にあたることにしました。

事の次第はこうです。その足音が聞こえはじめてからというもの、Hさんの住むマンションの一室では毎晩心霊現象が起こっているのだそうです。特に初めてその足音を聞いてしまった日の霊障はひどく、夜中はずっとうなされっぱなし。しかも高熱が出たため、身体は鉛のように重くなり、ひどいダルさに襲われたとか。まるで何かを背負っているかのような柔らかい感触も背中には感じられ、微かな息遣いや温もりすらあったというから、そら恐ろしくなってしまったのだそうです。とはいえ、これだけではさすがに霊現象だと言い切れません。しかしHさんには、これが霊障だという確信がありました。そしてある時を境に、こんな声も聞こえるようになったというのです。

「……けぇ! ……けぇ!」
その声は地下から響くように低く、くぐもっていました。だからすごく大きな声なのに、何を言っているのか聞きとることができません。しかもその声はどこまでもHさんを追いかけてきます。とうとう耳元でその声は聞こえるようになり、Hさんはガタガタと震え出しました。しかしHさんはその声に聞き覚えがありません。聞いているうちに身体全体の血の毛が引いていき、Hさんは地面に倒れてしまったのです。

薄れゆく意識のなか、Hさんは微かな笑い声を聞いたような気がしました。その笑い声は、まるでガラスを爪で引っ掻いたような嫌な響きをともなって、Hさんの脳内で反響したのです。ぐわんぐわんと音が響き、まるで殴られたときのように頭がガンガンしはじめました。電話占い尼子にお電話をくださったのは、まさにこの恐怖体験の後だったのです。

Hさんの心霊体験を霊能力で追体験し、吐き気がするほどの恐怖を感じた私でしたが、その心霊体験を通して、Hさんの何世代も前の遠い過去が見えてきました。つまりHさんが生まれる前のご先祖様の話です。実をいうとHさん一族には、先祖から代々語り継がれている言い伝えが存在しているのでした。そのことをHさんの波動から読みとったときには、長年霊能者をしてきた私もさすがに恐ろしくなって身震いしてしまったほどです。その言い伝えとは、こんなものでした。

Hさん一族の住居はとある山奥にあり、Hさんの実家はその山を切り崩して建てられています。きちんと山の神様に礼儀を尽くさなかったことが逆鱗に触れ、Hさん一家のなかには奇行に走る者が次々と出てきたのです。そしてあるとき、Hさんのご先祖様は誤ってある人物を殺めてしまいました。山の神の怒りと、殺された人物の恐怖がつながり、そこには強力な呪いの磁場が発生したのです。

つまりマンションで聞こえてきたその声は、そのマンションの自縛霊のものと思いきや、実はHさん一族を呪う者の声だったのです。もともとそのマンション一帯には悪い波動が広がっており、それがHさん一族の呪いを発動する引き金になったのです。ひとたび発動した呪いはHさん一族を襲うことになり、「ここから立ち退けぇ、立ち退けぇ」と叫んでいるのでした。

私はHさん一族の呪いを解くための霊術を発動し、磁場を綺麗に浄化。そのあと、Hさん一族の魂に邪悪なものが入らないよう、さらに祈祷をおこないました。呪いはかなり強力だったため、浄化や祈祷にはかなりの時間を要しましたが、ようやくそれらを終えたときにはHさんの声は明るさを取り戻し、生気のあるものとなっていました。呪いが解除されたのです。

このように何かがきっかけとなり、眠っていた呪いが発動してしまうことは、案外珍しいことではありません。ある特定の呪いの影響を受けていたとしてもそのことに誰しも気づくわけではなく、「たまたまそこに居合わせた霊のイタズラ」などと片付けてしまうことが多いのです。

ひょっとすると気づいていないだけで、貴女の一族にも何かしらの呪いがかけられているかもしれません。眠れる呪いを呼び覚まさないためにも、波動の乱れている場や霊のたまり場と呼ばれる場所には近づかないほうが賢明だといえるでしょう。

尼子の百物語 / 第六話「夜な夜な聞こえる呪いの声」