陸奥国の神秘 尼子

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第二話 男たちを恨む女が手招きする

今回お電話をくださったのは、現在恋人が入院中のYさん。製薬会社で営業を担当している彼は車で外回りの帰り道、カーブでハンドルを切り損なってガードレールに激突したといいます。いつも安全運転の彼がなぜ…と、慌ててお見舞いに出向いたYさん。幸い彼のケガは両脚の骨折だけで済み、命に別状はありませんでした。意識もはっきりしており、Yさんに思いがけない話をしたのです。
「カーブを曲がろうとしたとき、角に若い女が立って笑いながら手招きしてたんだ。その姿が視界に入った途端、吸い寄せられるように車が勝手に向きを変えたんだよ」その話を聞いて、Yさんは心底驚きました。というのも、彼女は彼の入院先とはちがう病院の看護師さんなのです。先月交通事故で入院してきた男性から、全く同じ話を聞かされていたのでした。なんと事故現場も同じ、M町2丁目の信号近く…。 「ねえ、その女性って、蝶の柄の浴衣を着ていなかった?」患者さんから聞いた特徴を口にすると、彼は驚いて答えました。「なんでわかるんだ!?」 Yさんは身体の震えを抑えることができず、彼と相談の上、私どもにお電話くださったのです。

電話を通してM町2丁目の信号近くから霊視をすると、はっきりと紺地に白い蝶の柄が入った浴衣姿の女性が視えました。私はまだ十代とおぼしきその女性の霊をこの身に降ろしました。
「憎い…許さない…男なんてみんなケダモノ」最初に出たのはこの言葉。私はなぜ男が憎いのか問いかけました。すると、彼女は突然おいおいと泣き出したのです。そして「それは言えない。言いたくない」とか細い声でつぶやきました。これは珍しいことです。この世にさまよっている霊はなんらかの未練や心残りがあり、私たちいたこの身体に降りると、未練を晴らすかのように雄弁にしゃべる霊が少なくありません。
「男に復讐したい。みんな呪い殺してやりたい」彼女が口にするのは男性への呪詛ばかりで、自分の身に起きたことについては頑なに口を閉ざしていました。

「男が死ぬことで、泣く女が大勢いるんだよ」私がそう諭すと、また彼女は声を上げてひとしきり泣いた後、ついに語り出したのです。
昨年の夏のこと。友達と一緒に夏祭りに出かけた彼女は友達とはぐれ、ひとりで夜道を帰っていました。すると、横に3人の男が乗った車が止まり、引きずり込まれるようにして車に乗せられてしまったのです。そして、車はM町2丁目の人気のない場所に止まり、3人に代わる代わる乱暴されてしまいました。まだ恋も知らなかった彼女は車から解放されると、そのまま近所の団地の屋上から飛び降りて自殺。しかし、男たちへの恨みから成仏できず、地縛霊となっていたわけです。

私は彼女の無念さを考えると、胸の締めつけられる思いでした。男たちを事故に遭わせて殺してやりたいと呪う気持ちも哀れでなりませんでした。しかし、事故に遭っているのは、彼女を乱暴して死に追いやった男ではなく、全く無関係の男性なのです。
私は必死にそれを説き、彼女はもう二度とあの場所で車を事故に遭わせるのはやめると約束してくれました。安心したのも束の間、彼女はこんなことを言い出したのです。
「もっともっと怨念の炎を燃やし、必ずや私をあんな目に遭わせた男たちの居場所を突き止める。そして、とり憑いて呪い殺す」
今度は彼女も私の説得には応じませんでした。それっきり、私の身から離れていった彼女の霊。最後に感じた凄まじい憎悪の念は、きっと悪漢どもの居場所を突き止めるでしょう。彼らを呪い殺すことで、彼女の霊は安息を得られるのでしょうか…。