陸奥国の神秘 尼子

陸奥国の神秘 尼子

第一話 心中した恋人たちがすすり泣く

イタコの口寄せに依頼されたのは、関東地方に住む新婚の男性でした。結婚と同時に家を建てたものの、夜になると毎晩のように男女のすすり泣きが聞こえるとおっしゃいます。奥様は恐怖のためノイローゼとなり、ご実家に帰られてしまったとのこと。このままでは結婚生活が崩壊してしまうと危惧されて、ご相談にいらっしゃいました。

私は新居の写真と間取り図を見ながら、霊を降ろしました。降霊にしては珍しく、二人の霊が代わる代わる私の身に降りてきたのです。 「あそこは僕たちの新居となるはずの場所でした」と語るのは男性の霊。「私たちも夫婦として家庭を築きたかった」と嘆くのは女性の霊。じっくり話をしてみると、二人は明治時代、愛し合っていた貴族の令嬢とその家に住む込む書生だったのです。一緒になる契りを交わした二人でしたが、身分の差により反対され、駆け落ち。しかし、すぐに見つかり連れ戻されそうになったため、湖で心中をはかりました。

二人が逃避行の間に暮らしていた下宿の跡地こそ、ご依頼人夫妻の新居の場所。愛の巣で地縛霊となっていた二人のもとへよりによって新婚夫婦がやってきたことで、二人は一緒になれなかった悲しみをあらためて思い出し、毎夜すすり泣いていたというわけです。
「しかし、このままではこのご夫妻もあなたたちのように引き裂かれてしまいますよ」
そのひと言が効いたらしく、二人の霊は家から立ち去ることを約束してくれました。 以来、すすり泣きは聞こえなくなり、奥様も家に戻って再び甘い新婚家庭が始まったそうです。

しかし、気になるのは心中した二人の霊。家からは出て行ってくれたものの、二人の未練は根深く、短時間の口寄せだけでは成仏は難しかったと思われます。今は心中を遂げた湖か二人が出会った令嬢の生家ででも泣いているのではないでしょうか……。