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尼子の百物語

第三十九話「山ガールの愛の話」

20年も前になりますが、わたしの友人が登山で「幼馴染」を亡くしました。

2人とも春登山、夏登山、秋登山、年明けは山の頂上から、が当たり前になっていて、2人はいつの間にか30歳を越えようとしていたのに独身のまま、登山で友好を深め合っていました。しかし、ある年、災いが。登頂した際、彼が石車に、そしてあっという間に20m以上落下。彼女は必死に彼のもとへ降り救助へ。しかしその間もなく、彼は意識不明、亡くなってしまいました。

実はこの時、夕暮れにまどろみながら、わたしはちょうどその様子を幽体離脱して、見ていました。彼女の幼馴染は、わたしの幼馴染でもあったからなのでしょうか(実はわたしの方が彼女よりもう少し幼馴染だったのです)、彼が呼んだのか、涙が逆流してノドを通っていきました。わたしも彼のそばで声をかけました、「○○君、生きて!」。

パッと魂を戻した瞬間、夕焼けにふいに風が吹き、カーテンが揺れて一瞬、庭を誰かが通っていきました。微笑むその顔。

 (○○君!)

しかし、願いは叶わず、夜のニュースには報道されたのです。わたしは彼女の帰りを待って、一緒に彼の実家へ。棺の中の彼を見て、2人とも改めて泣き崩れました。彼は本当に良い人で、わたしは保育園の頃からの付き合い、別段意識するわけでもなく、本当に親友として、帰り道を一緒にしたり、小学校へあがっても中学校へあがっても、その縁は途絶えませんでした。彼女が彼と知り合ったのは小学低学年の頃、転校してきた彼女にわたしが彼を紹介し、いつの間にかわたし無しでも2人で一緒に下校したり、遊んだり。20歳を過ぎても、送られてくる年賀状は2人で登頂を喜んでる写真、しかし、それから10年、彼は逝ってしまいました。彼女は今でも月命日、毎年の命日にお線香をあげに実家へ行きます。そして、2人で登った最期の山にお線香をあげに。彼女は今も未婚、彼女の愛はすべて「彼」に注がれ続けていました。

彼女の両親は心配し、わたしに相談を持ってきました。わたしも、いつかは過去のこととして再出発してくれるものだと思っていましたが、彼女の心は彼に固定され、やはり動かずじまい。その間にも、わたしはホームパーティやフットサル、野球、キャンプに彼女を呼び、他の人との友好な時間を作りました。しかし、新しく出発する出会いはなかなかできず。そのあまりの「想いの強さ」に、わたしは彼女に助言しました。

「人をいつまでも大事に思うのはとても良いことだけれど、思い続けることで相手の魂を「縛る」こともある、つまり、現世のあなたがあの世の彼を思い続ければ、彼は成仏できない、地縛霊にはならないけれど、浮遊霊として、いつまでも成仏できない。邪霊に堕ちてしまう。思い出は思い出、彼の再出発のための祈りにしてほしい、いつまでも哀しい気持ちで手を合わせていても彼のためにならない。もう彼は帰ってこないんだよ、新しい魂として生まれ変わってもらおうよ」。

彼女は言いました、「それは解っている、でも、今でも彼を待ってしまう」。前向きにならなければ、誰も幸せにはならない、わたしは彼女を強く説得し、改めてお線香をあげに行きました。もちろん最期の山にも。

わたしも一緒に登山しました。この険しい道を通り、目前にせまるゴールを目にし、俄然やる気を出して登ったに違いない登山道、夕暮れに染まっていく山々、これが彼の最期の良い思い出。 「ごめんなさい、○○君!成仏して、今度こそ長生きしてね!」

彼女は夕陽に向かって叫んでいました。その涙は止まることなく。彼女は今でも登山を愛しています、が、今度は彼の幸せを願い、登っています。

尼子の百物語 / 第三十九話「山ガールの愛の話」