陸奥国の神秘・電話占い
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尼子の百物語

第十二話「車に憑いてきた悲しい不浄霊」

「私の車にどうやら霊が憑いてしまったようなのです」困り果てた声でそう話されたのは、千葉県柏市にお住まいの保則さん(仮名・35歳)。結婚はしておらず気ままな独身貴族を楽しんでいる方で、趣味は車いじりとドライブ、とのこと。土日や祝日を利用してマイカーで旅に出ることも多く、かなりアクティブな方のようです。そんな保則さんの車にどうやら霊が憑いてしまったらく、「本物の霊能者に電話一本で相談できる」という尼子のことを知り、お電話を掛けてこられました。

心霊絡みの問題であるということは、鑑定が始まった直後に察していました。不浄霊の気配がしたからです。不浄霊に憑かれている方は気配ですぐに分かります。饐えた臭いと言いますか、カビ臭いと言いますか……。もちろん本当にそういった臭いがするわけではないのですが、死後いつまでも成仏せず現世に留まっている魂からは、そのような気配がしてくるのです。そのような霊感により、おおよその事情は察しておりました。しかし、保則さんが自らお話したいご様子でしたので、それを遮らないように、ご本人の口から事情をお伺いしました。

「誰もいないはずの助手席に何かがいるみたいなのです。先日、車を運転しているところを友人に見られたのですが、後で『隣に乗せてた子は彼女?』と聞かれたのです。もちろん女性なんて乗せていませんでした。他にも、実際に車に乗った人が『もう一人いるみたい』と言ってきたり……。みんな口をそろえて『私の車に誰かが居る』と言うのです。気になって気になって、霊能者の先生に鑑定をお願いしたいと思いまして」

保則さんは丁寧に状況を話して下さいました。事実、そのお話を聞きながら霊視を行った結果、マイカーの後部座席には不浄霊が取り憑いているようでした。その霊は保則さん自身に縁のある存在ではありませんでしたが、「30代の独身男性」に対して非常に強い執着が感じられましたので、一体どこで憑いたのか、どういった意図があって憑いているのか、霊視を進めました。そして一通りのことが分ったのです。

「二週間ほど前に山の中の温泉にご旅行に行かれましたね?」まずそう尋ねると「はい行きました。すごい! 本当に当たるんですね!」と驚かれた後、「え、じゃあ、まさかあそこで!?」と察した保則さん。「はい。正確に言うとその道中にある橋で憑いてきました。あなたは途中で見晴らしのいい橋を通りました。そこで一旦車を止め、辺りの景色を眺めましたね。そしてその際、足元に献花を見つけたはずです。その花を捧げられた人が、あなたの車に憑いています」そう説明いたしました。「確かにそんなことがありました……」私の説明を聞いた保則さんはハッとした様子でそう呟きました。

橋の欄干に手を掛け、絶景を堪能していた保則さんは、ふと足元を見降ろすと、小さなコップにささやかな花が備えられているのを見つけました。ああ、この橋から飛び降りた人がいるんだな。かわいそうに。そう思い、保則さんは小さく手を合わせました。それが良くなかったのです。それは保則さんの優しい気持ちがそうさせたものだったのですが、不浄霊は同情するとその相手に憑いてきてしまうことがあります。また不運だったのが、その自殺した方が女性で、ちょうど保則さんと同じ年齢の男性に振られ、失恋を苦に……という状況だったことです。彼女は自分の執着していた相手と程近い条件の保則さんに目をつけ、そのまま車に憑いてきてしまったのです。

私はその霊との対話を試みることにしました。念を飛ばし接触を計ると、霊体は意外にも穏やかな雰囲気で念対話に応じてくれました。その霊は保則さんが自分の振られた恋人と全く関係のない方であることを理解しており、それでもなお昔の恋人と似た保則さんが恋しくなり、憑いてしまったようです。【迷惑なのは分かっていました……でもずっと一人で寂しくて……】そう念で語りかけてきたのです。普通の不浄霊であれば強制的に祓う除霊を行うところでしたが、あまりの不憫さに、私は浄霊を行うことに決めました。霊の無念を解消し、成仏して霊界に帰るように促すのです。

【失恋はさぞお辛かったでしょう。でもあなたはもう悲しんでいる時ではありません。あなたには次の生が待っています。自殺を選んだ罪を償い、それから新しい人との幸せを得るのです。早く成仏して、生まれ変わりなさい。きっと来世でもっと素敵な人と出逢えるでしょう……】

私はそう念で語りかけました。彼女はすぐに分かってくれました。【そうですね。ありがとう。この車の持ち主の彼に『迷惑かけてごめんなさい』とお伝えください。さようなら……】そう念で語り、そのまま成仏していきました。

事の顛末はすべて保則さんにお伝えしました。すると保則さんはとても感慨深そうに「そうですか……」と呟き、続いて「いや、私は霊感なんてものは全くないのですがね、別にイヤな感じはしなかったんですよ。その彼女の霊を見たという友人も、『彼女?』って聞いてきたくらいですし。きっと、本当に寂しかったんでしょうね」そう言って下さいました。「次は幸せになって欲しいですね」そんな言葉と共に、鑑定は終了となりました。

不浄霊はさまざまな理由を抱えて現世にとどまっています。その多くが恨みや無念を抱えた者であることは事実ですが、決して絶対的な悪ではありません。彼らも生前はひとりひとり感情を持ち、嬉しい気持ちや誰かを愛する気持ちを抱え、それぞれの人生を歩んでいたのです。「道端の献花に同情すると霊が憑いてきてしまうから良くない」というのも事実。実際、今回の保則さんはそれで不浄霊に憑かれてしまいました。

しかし、それはそれとして、死者を悼むという気持ちは人として大切なものです。それは、見知らぬ人に悪意を向けない、かといって不自然なほど親切になる必要もない、という話と同じことです。「人が死んだから」「自殺の名所だから」「心霊スポットだから」というだけの理由で面白半分に冷やかしを入れれば、霊も怒ります。思い入れし過ぎない、かといって失礼な真似もしない、というのは、霊が相手でも、人が相手でも変わりない振る舞い方なのです。

尼子の百物語 / 第十二話「車に憑いてきた悲しい不浄霊」